フェミニズムとは・意味
フェミニズムとは?
フェミニズムとは、性差別をなくし、性差別による不当な扱いや不利益を解消しようとする思想や運動のことである。フェミニズムはその歴史から女性権利向上・女性尊重の運動だと捉えられがちだが、男性嫌悪や女性だけを支持するものではなく、男女両方の平等な権利を訴える運動である。そのため、行動や発言に表れるあらゆる性差別から、社会や制度に根付いた構造的性差別まで、幅広い事象を対象とする。以下は、フェミニズムが取り組む主な場面の例だ。
具体的な場面
- 職場での平等:職場での性差別に対抗し、同一労働同一賃金の原則を推進し、キャリアアップの機会の平等を求める。
- 教育アクセス:男女共に平等な教育の機会を提供することで、女性が教育を受け、専門職や高等教育に進む機会を保障する。
- 政治参加:女性の政治参加を増やし、政策決定プロセスにおける女性の声を強化する。
- 健康と生殖権:女性の健康、特に生殖健康と権利を守り、選択的な出産と安全な中絶へのアクセスを支持する。
- 暴力からの保護:家庭内暴力、性的暴力、職場でのハラスメントなどから女性を守るための法的・社会的な保護を強化する。
- メディアと文化の表象:メディアや広告、映画、テレビなどにおける女性のステレオタイプを打破し、多様で現実的な女性像の表現を推進する。
- 経済的自立:女性の経済的自立を支援し、起業や自営業へのアクセス、資金調達の機会を提供する。
フェミニズムの歴史
フェミニズムには歴史上、特徴や目的に沿って第一波から第四波までの大きな流れがあった。
第一波フェミニズム:女性の参政権
第一波フェミニズムは19世紀末から 20世紀初頭に行われた、男性と平等の市民権を求める運動である。具体的には女性の参政権、相続権、財産権、政治的平等を訴えた。
19世紀に奴隷解放運動に携った女性の間で生まれたため、アメリカやイギリスが運動の先駆けとなった。アメリカでは1848年、「女の独立宣言」とも呼ばれる女性参政権を求める宣言が提出され運動が活発化。イギリスでも、女性集団「サフラジェット」が登場し、女性の参政権を獲得。これをきっかけに各国でも大規模な運動が行われた。
しかし参政権の獲得のみでは、女性の地位向上や社会的に男女平等を妨げる大きな壁を排除することはできず、第二波フェミニズムにつながる。
第二波フェミニズム:平等な権利と解放運動
第二波フェミニズムは1960年代後半から70年代前半にかけて行われた運動で、ウーマンリブ(女性解放運動)とも呼ばれる。
アメリカのフェミニスト作家ケイト・ミレットが著作「性の植民地」で語った、「個人的なことは政治的なこと」というキーワードが第二波フェミニズムを端的に表している。女性の家庭での役割概念や生殖の自由など私領域で起きていた諸問題が、社会の男女不平等問題と密接に絡み合っていることを訴求したのだ。その事実に気付いた女性たちが、社会が求める女性像からの解放を求めた運動であった。
第三波フェミニズム:多様性と異文化理解
第三波フェミニズムは1980年代終わりから1990年代にかけて行われた、「インターセクショナリティ」「ダイバーシティ」を重視し、「自分らしさ」を求める運動である。
90年代初頭にアメリカを中心に行われたライオット・ガール・ムーブメントが代表的な運動として紹介されている。ライオット・ガール・ムーブメントとは、1990年代前半にビキニ・キル、ブラットモービル、ヘヴン・トゥ・ベッツィーなどガールズバンドによるパンク・ロック音楽から巻き起こったムーブメントで、ステレオタイプ化された女性像を拒否した女性たちが、自らの手で女性性を取り戻そうとした動きである。ジン作り、アート、集会など自己表現を通し、全米の女性に拡がった。
第三波フェミニズムでは、性別だけでなく、人種、宗教、性的指向など様々な差異に関係なく、誰もが自分らしくいられる社会を目指す動きがとられた。こうした第三波フェミニズムの動きは、国境や人種を越える活動であるため、「グローバル・フェミニズム」とする見方もある。
第四波フェミニズム:デジタル時代とアクティビズム
現代のフェミニズムではSNSを中心とした「オンラインアクティビズム」の動きが活発化している。
世界的に有名になった「#MeToo運動」はその代表例。セクハラや性的暴行の体験についてハッシュタグ「#MeToo運動」を付けてSNSで発信する運動で、ハリウッド女優や世界中の著名人が発信したことで大きな話題となった。
日本では、この「#MeToo運動」と連動した「#KuToo運動」が記憶に新しい。女性が職場でヒールやパンプスを強制されることへの抗議ムーブメントで「いいね」の数は約6万7,000件に上り、約3万回リツイートされた。
このように居住地や国境、人種を超えてタイムリーに連携できるSNS上での運動が盛り上がりをみせている。
主要なフェミニズム理論
また、フェミニズムには基盤となるいくつかの理論が存在する。
リベラル・フェミニズム
リベラル・フェミニズムは、個人の自由と権利を重視し、法的な平等を通じて性別に基づく差別を解消しようとする思想。主に政治と法の枠組み内で女性の権利を拡大することに焦点を当てており、投票権や職場での平等など、具体的な法改正を推進する活動が特徴的だ。リベラル・フェミニズムは、ジェンダーによる不平等が法と制度によって維持されていると考え、これらを改革することで平等が達成されると主張する。
ラディカル・フェミニズム
ラディカル・フェミニズムは、性別に基づく抑圧が社会の基本的な構造に深く根ざしていると考える。この流派は、単なる法的な改革を超えて、男性支配(パトリアーキー)の根絶を目指し、女性の身体と生産性に対する支配を解放することを重視する。ラディカル・フェミニズムは、ポルノグラフィーや性的暴力など、女性に対する暴力を根本的な抑圧の形態として批判し、これらの問題に対する社会的認識と変革を求める。
社会主義フェミニズム
社会主義フェミニズムは、ジェンダーに基づく不平等が経済的な不平等と密接に関連していると位置づける。この理論は、資本主義が女性の労働を搾取し、家庭内労働を「無償」にすることで女性を不利な位置に置くと批判する。社会主義フェミニズムは、経済構造の変革を通じて、ジェンダー平等を実現することを目指す。これには、公的な保育所の提供や育児休暇の制度など、家庭と職場の負担を軽減する政策が含まれる。
エコフェミニズム
エコフェミニズムは、環境破壊とジェンダーに基づく抑圧が相互に関連しているとする思想。この理論は、自然と女性が共に搾取され、支配されることに着目し、環境保護とジェンダー平等を同時に推進する。エコフェミニズムは、サステナブルな生活方式と環境保護に関連する政策を支持し、地球とその上の生命に対するより敬意を払った関係を提唱する。
ポストモダン・フェミニズム
ポストモダン・フェミニズムは、アイデンティティや経験が多様であり、普遍的な「女性の経験」は存在しないと主張する。この流派は、言語や文化がいかにしてジェンダーの現象を構築するかを探求し、固定されたアイデンティティの概念を解体。ポストモダン・フェミニズムは、多様な声を取り入れることで、フェミニズム内部の排除や偏見に対抗し、より包括的な理解を目指す。
重要なフェミニズム運動
フェミニズムは運動とともにつくられてきたと言っても過言ではない。ここでは近年の代表的な動きを説明する。
#MeToo運動
#MeToo運動は、2017年に米国で始まり、セクシュアルハラスメントや性的暴力に対する国際的な認識と抗議の波を引き起こした。この運動は、女優アリッサ・ミラノが自身のツイッターで「#MeToo」と投稿し、性的な嫌がらせや暴力を経験した人々に同様に声を上げるよう呼びかけたことから急速に広がった。
#MeTooはただちに話題になり、世界中の数百万人が自身の経験を共有し始めた。この運動は、ハリウッドをはじめとする多くの産業での高位の人物に対する告発につながり、職場での性的不正行為に対する新たな法的および社会的な基準を設定する契機となった。#MeToo運動は、沈黙を破り、被害者が声を上げる環境を強化することで、文化全体に影響を与えている。
リプロダクティブ・ライツ(生殖権)
リプロダクティブ・ライツは、個人が安全かつ情報に基づいた方法で自分の生殖に関する決定を行える権利を指す。この権利は、避妊のアクセス、安全な中絶の手段、妊娠と出産の適切な医療へのアクセス、そして性教育へのアクセスを含む。
国際的な人権団体や多くの政府によって支持されているにもかかわらず、多くの国や地域で生殖権は依然として論争の的である。例えば、アメリカでは、州によって中絶の法律が大きく異なり、一部の州では中絶を事実上禁止している場合がある。生殖権の擁護者は、これらの権利が女性の健康、平等、そして社会経済的な自立に不可欠であると主張している。
ウィメンズ・マーチ
ウィメンズ・マーチは、2017年1月にドナルド・トランプ米国大統領の就任翌日にワシントンD.C.で開催された大規模な抗議行動である。この行動は、女性の権利の擁護だけでなく、人種差別、移民に対する不公正、宗教的偏見など、多岐にわたる社会的問題に対して声を上げることを目的としていた。
このマーチは世界中で共鳴し、世界各地で姉妹マーチが同時に行われ、数百万人が参加した。ウィメンズ・マーチは、特に女性の権利を中心に、さまざまな社会正義の問題に対する新しい波の始まりを象徴している。
トランスジェンダー権利
トランスジェンダー権利は、トランスジェンダーの人々が直面する差別から保護され、性別に関わらず平等に扱われるべきであるという原則に基づく。これには、性別を自己申告する自由、適切な医療へのアクセス、教育や職場での平等な機会が含まれる。多くの国で、トランスジェンダーの人々は依然として暴力や偏見のリスクに晒されており、法的な保護は不十分な場合が多い。
しかし、一部の国では性自認に基づいて法的な性別の変更を認めるなど、トランスジェンダー権利に対する認識が進んでいる。トランスジェンダーの権利擁護者は、性別に基づく全ての形式の差別を終わらせるために活動している。
フェミニズムと他の社会運動との連携
さらに、フェミニズムはジェンダーの問題以外を取り扱う社会運動とも交差し、議論を深めてきた歴史がある。その一例が以下だ。
人種差別とフェミニズム
人種差別とフェミニズムの交差は、インターセクショナル・フェミニズムという概念で広く認識されている。このアプローチは、女性の経験が人種、階級、性的指向、身体能力など多様なアイデンティティと社会的文脈によって異なると考える。
例えば、黒人女性やその他の有色人種の女性は、性別に基づく差別だけでなく、人種に基づく差別の影響も受けるため、白人女性とは異なる固有の課題に直面する。この複雑な重層性を認識し、人種差別との戦いをフェミニズムの議題に組み込むことが、より公正な社会への道を切り開く。フェミニズムが人種的な平等を無視して女性の権利だけを追求する場合、その運動は全ての女性を代表しているとは言えない。
LGBT+とフェミニズム
LGBT+の権利とフェミニズムの連携は、ジェンダーの多様性と性的指向の認識の向上に貢献している。フェミニズムはもともと性別に基づく不平等に対抗する運動であるが、LGBT+コミュニティの問題を取り上げることで、ジェンダーノームや性別表現に対する固定観念にも挑戦する。
トランスジェンダーや非バイナリーなど、性の多様性を認めることは、従来の男女二元論を超えたフェミニズムの理解を深める。同時にそれは、LGBT+コミュニティはフェミニズムから支援を受けることで、性的指向に関わらず全ての人に平等な権利が保障されるよう働きかけるものでもあるのだ。
環境保護とフェミニズム
環境保護とフェミニズムの連携は、特にエコフェミニズムを通じて進んでいる。エコフェミニズムは、自然環境と女性が共に搾取と支配の対象になっているという観点から、環境破壊とジェンダー不平等が相互に関連していると主張する。
気候変動の影響は女性に不釣り合いに影響を及ぼすことが多く、特に発展途上国では生計を支える資源の枯渇や自然災害により、女性の生活が直接的に脅かされる。このため、環境正義を推進することは、女性の権利と直接的に結びついており、持続可能な開発とジェンダー平等の達成には、これら二つの問題を一体として考える必要がある。
フェミニズムのこれから
アメリカでは、フェミニズムへの支持はあるものの、全ての人が自らをフェミニストとは呼ばないというデータもある。たとえば、2020年のPew Research Centerの調査によれば、アメリカ人の多くがジェンダー平等を支持しながらも、その割合は「フェミニスト」と自称する人の割合よりも高いことが示されている。
これは、「フェミニズム」という言葉に対する社会的な誤解やスティグマが影響していると考えられるだろう。「男性嫌い、過激な女性主義がフェミニズムである」という世間の誤ったイメージがフェミニズムを敬遠させている要因の一つになっているのだ。
しかし、フェミニズムとは先述のように、決して男性嫌悪や女性だけのための運動ではなく、全ての人が性差別を受けることなく、自分らしく生きる社会を目指す運動である。
ジェンダーギャップ指数2023における日本の順位は146か国中125位、主要7か国(G7)で最下位だった。男性でも女性でも性別に関係なく、男女平等を願う全ての人が身の回りで起きる違和感に声をあげれば、ジェンダーギャップの問題は解決していくのではないだろうか。まずは第一歩として、フェミニズムへの正しい理解と広い視野が必要だ。
【参照サイト】ジェンダー論(堀口悦子)
【参照サイト】フェミニズムの新しい潮流 : 「第4波フェミニズム」(荒木生)
【参照サイト】ハイヒール強制やめて 「#KuToo運動」世界が共感(朝日新聞)
【参照サイト】「共同参画」2021年5月号(内閣府男女共同参画局)
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