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電子廃棄物問題

電子廃棄物とは?

電子廃棄物(E-waste)は、乾電池や電子機器の廃棄物であり、世界的に最も急速に増加している廃棄物のひとつです。コンピューター、携帯電話、大型家電製品、医療機器などが電子廃棄物に含まれます。

国連グローバル電子廃棄物統計パートナーシップの報告「The Global E-waste Monitor 2020」によれば、2019年には全世界で5,360万トンの電子廃棄物が発生し、2030年までには7,470万トンに増加すると予測されています。しかし、これらの廃棄物のうち約17.4%しか回収・リサイクルされていないということです(※1)

日本においては、2019年に256.9万トンの電子廃棄物が発生し、そのうち57万トンが回収・リサイクルされたと報告されています。一人当たり平均で20.4キロの電子廃棄物が発生していることが明らかになりました。

電子廃棄物には約6兆円以上の価値があると見積もられており、「都市鉱山」としての潜在的なビジネスが存在します。携帯電話1トンの山には、金鉱石1トンに含まれる金の100倍以上の価値があるとされ、電子廃棄物のリサイクルが自然の金鉱を採掘するよりも、より経済的であることを示唆しています。

今日の電子廃棄物の急速な増加は、電化製品の普及やその消費サイクルの短さに起因しており、適切な処理が行われない場合には環境や人に深刻な影響を与える可能性があります。そのため、効果的で安全なリサイクルと廃棄物管理の取り組みが喫緊の課題となっています。

電子廃棄物は何が問題なのか?(Impacts)

人体への影響

電子廃棄物は都市鉱山として注目される一方、有害物質を多く含み、また、投棄場での不適切な処理方法によって有毒ガスが充満し、地球環境に深刻な影響を与えています。特にガーナ・アグボグブロシーには、世界最大の電子廃棄物処理場があり、極めて劣悪な環境に置かれています。ここで働く労働者たちは、金属やレアアースを回収するために劣悪な環境に身をさらし、その結果、若い世代ががんで命を落としていることが報告されています。

電子廃棄物は、不適切な処理が行われると、鉛などの有害な神経毒を含む約1,000種類もの化学物質が環境中に放出される可能性があります。他にも、ダイオキシン、水銀など、公衆衛生上懸念される10の化学物質が含まれています。不適切なリサイクルは、公衆衛生と安全に対する脅威であり、適切な規制、リサイクルインフラ、トレーニングの欠如により、低・中所得国(LMICs)に住む人々が深刻なリスクに直面しています。

電子廃棄物処理における、埋め立てや焼却、手作業による解体などの慣行は、汚染物質を放出する一因となっています。これらの有害物質は、現場や周辺地域の大気、土壌、水を汚染し、環境や人間の健康に深刻な影響を与えています。特に燃焼や加熱は、有毒ガスを発生させ、広範囲に影響を及ぼす危険な活動です。いったん環境中に放出された有毒汚染物質は、遠く離れた地域の住民を健康リスクにさらすことになります。これらは女性や子どもに深刻な影響を与えており、特にリスクが高いといいます。具体的には、死産や早産の増加、新生児への悪影響、神経発達、学習、行動の結果への鉛の影響、肺・呼吸器機能の低下と喘息発症率の増加などが挙げられます。

環境への影響

電子廃棄物の不適切な管理は、有毒ガスによる環境汚染を引き起こすだけでなく、温室効果ガスを大気中に放出することで気候変動の一因となっています。例えば、冷蔵庫やエアコンなどの不適切な廃棄により、2019年だけで9,800万トンもののCO2が大気中に放出され、これは世界の温室効果ガス排出量の約0.3%に相当します。同時に、電子機器の素材はリサイクル可能であるにもかかわらず、廃棄時に新たな原料の採取が行われ、これが採掘や精錬に伴う温室効果ガスの排出を増加させています。

人権問題

国際的な規制があるにもかかわらず、電子廃棄物はしばしば低・中所得国に違法に持ち込まれているといいます。非公式な電子廃棄物リサイクル活動に参加している子どもたちは、ごみ拾い、焼却、手作業による部品の分解に従事しており、怪我や高レベルの有毒化学物質にさらされているのです。子どもたちは安価な労働力の供給源とみなされ、また、小さな手で小さな機械を分解できる利点があると考えられ、児童労働による搾取が存在し、深刻な人権問題となっています。こうした投棄場での労働は「最悪の児童労働」のひとつとされており、国際労働機関(ILO)によれば、2020年までに1,650万人もの子どもたちが廃棄物処理産業の一員として働いていると推定されています。

電子廃棄物の現状(Current Situation)

電子廃棄物は、世界で最も急速に増加している固形廃棄物の一形態とされています。2019年には、全世界で約5,360万トンの電子廃棄物が発生したと推定されていますが、これのわずか17.4%しか正式に回収・リサイクルされていません。

ガーナのアグボグブロシーには、「電子機器の墓場」と呼ばれる、東京ドーム32個分の世界最大の電子廃棄物投棄場があります。この投棄場は、生ごみやプラスチックごみとともに電子廃棄物で埋め尽くされており、すぐ近くには人々の家が建っています。住民は焼却してリサイクル可能な金属を取り出し、それを売ることで生計を立てているのです。辺りは黒煙と溶けたプラスチックの異臭に包まれ、有毒ガスにさらされながらも働かかざるを得ない人々の日給は多くて500円程度だといいます。

この状況は、先進国と低・中所得国との間に明らかな不均衡があることを示しています。廃棄物は先進国から送られ、最終処分を押し付けられているのです。

電子廃棄物問題への対策(Action)

電子廃棄物問題から地域社会や地球環境を守るためには、国内および国際的なアクションが必要です。WHOによると、具体的な対策には以下が含まれます:

対策例
  • 高レベルの国際協定の採択と実施
  • 公衆衛生を保護する電子廃棄物管理に関する国内法の策定と実施
  • 国の法律に健康保護対策を組み込むこと
  • 電子廃棄物処理場とその周辺の地域社会の監視
  • 非公式の電子廃棄物リサイクル活動を改善し、公衆衛生を守り、地域社会の収入源を確保するための介入策を実施し、監視すること
  • 電子廃棄物に関連する子どもの健康問題について、あらゆるレベルの保健ワーカーを教育すること
  • 児童労働の廃止

国際協定の採択と実施

国際協定としては、バーゼル条約が有害廃棄物の越境移動とその処分を規制しています。この条約は、電子廃棄物を含む有害廃棄物に対処するための包括的な環境協定であり、2019年にはその禁止改正が発効しました。この改正は、バーゼル条約に加盟していない国々への電子廃棄物の移動を禁止しています。また、バーゼル条約は、電子廃棄物の適切な管理に関するガイダンスや、廃棄物と非廃棄物の区別、電子廃棄物の越境移動に関するガイドラインを提供しています。

しかし、このような国際規定が実質的には十分に機能していない側面も存在するため、さらに高い水準が必要であると考えられています。

「修理する権利(Right to repair)」の拡大

修理する権利」とは、製品を購入した消費者が、メーカーを通さずに自ら製品を修理できる権利を指します。これは、主にパソコン、スマートフォン、自動車などの電子機器や機械に関連しています。

既存のビジネスモデルでは、メーカーは製品の修理を独占的または限定的に行い、特定の修理業者を指定しています。他のメーカーの部品が利用される余地は限られており、これにより競争が制約され、修理費用もメーカーが自由に決めることができます。その結果、「修理するよりも新しく買うほうが経済的だ」という考えから、多くの製品が廃棄されています。修理や部品入手が困難な状況が、製品の寿命を短縮し、廃棄物の増加に寄与しているのです。

「修理する権利」は、消費者が製品を長く使用でき、環境への負荷を軽減できるようにするために、製品の修理が容易で手頃な価格で行えるようにする必要性を訴えています。

個人レベルでの取り組み

国際的な枠組みの設立や国家レベルでの対策だけでなく、個人レベルから始まった非常に意義深いイニシアチブもあります。

 

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長坂真護氏は、2017年にガーナのアグボグブロシーを訪れたことをきっかけに、アートによる支援活動を始めました。電子廃棄物を「ごみ」ではなく「素材」として作品を制作し、その売り上げで、これまでに1,000個以上の防毒マスクを届け、完全無料の小学校を設立し、地域初の文化施設であるミュージアムを開館。さらに、2021年には作品の年間総売上高が8億円を突破しました。2030年までにアグボグブロシーのごみをゼロにするために、100億円規模の最先端のリサイクル工場を運営することが現在の目標であるといいます。

【参照サイト】「電子廃棄物の墓場から、僕らは未来を描き出す【ガーナ】」JICA

私たちにできること(What can we do?)

電子廃棄物問題の改善には、国際的な協力体制や国家、企業の規制だけでなく、個々の消費者が持つ意識を変えることが重要です。なぜなら、すでに発生しているごみの管理やリサイクルをどれだけ改善しても、新たなごみが絶え間なく発生する状況を変えない限り、問題の根本的な解決は難しいからです。

電子廃棄物の急増には、消費者の行動が大きく影響しています。例えば、最新モデルの登場やトレンドに惹かれ、既存の製品に不満がなくても買い換えるといった行動が挙げられます。

対策として、製造者は、製品の設計段階で耐久性、修理のしやすさ、リサイクル性を考慮することが重要です。循環型経済の理念を具現化するためには、できるだけごみを発生させないようなデザインを重視する必要があります。例えば、オランダのスタートアップ企業Fairphone(フェアフォン)が販売するスマートフォンは、長期の使用を目的に修理が容易なモジュール式を採用し、本体はリサイクル素材を使用した、循環型経済の考えに共鳴する製品です。

同時に、消費者である私たちが「使い捨て」の考え方ではなく「長く大切に使う」姿勢を養うことも重要です。具体的には、環境に配慮した製品を選択することや、短期間でのモデルチェンジを避けること、また、電子機器を修理し、適切にリサイクルすることで、製品の寿命を延ばし、廃棄物削減に貢献することができます。

電子廃棄物問題を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで、電子廃棄物問題に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

※1 Electronic waste (e-waste). WHO
【参照サイト】Electronic waste (e-waste). WHO
【参照サイト】Sustainable Future of E-waste. UN
【参照サイト】「電子廃棄物の墓場から、僕らは未来を描き出す【ガーナ】」JICA
【参照サイト】‘The Global E-waste Monitor 2020’.
【参照サイト】Japan 2019
【参照サイト】Forti, Vanessa, Balde, Cornelis P., Kuehr, Ruediger and Bel, Garam. ‘The Global E-waste Monitor 2020: Quantities, flows and the circular economy potential’. Bonn, Geneva and Rotterdam: United Nations University/United Nations Institute for Training and Research, International Telecommunication Union, and International Solid Waste Association. (2020).
【参照サイト】電子廃棄物(E-waste)とは・意味
【参照サイト】修理する権利(Right to repair)とは・意味
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