ステレオタイプとは・意味
ステレオタイプとは
ステレオタイプとは、多くの人に浸透している固定観念や思い込みのこと。例えば国籍・宗教・性別など、特定の属性を持つ人に対して付与される単純化されたイメージがそれに該当する。アメリカの著作家・政治評論家であるウォルター・リップマンによって提唱された概念。
「ステレオ」と聞くと、サウンドをイメージする人は多いかもしれないが、ステレオタイプの語源は印刷用語であり、新聞や辞書などの活字印刷のために使われていたステロ版(鉛版)印刷からきている。ステロ版で印刷すると、型を抜いて作ったかのように似たものができることから、今の「ステレオタイプ」になったといわれている。
人権啓発用語辞典によるとステレオタイプには以下の特徴があるとされている。
- 過度に単純化されていること
- 不確かな情報や知識に基づいて誇張され、しばしばゆがめられた一般化・カテゴリー化であること
- 好悪、善悪、正邪、優劣などといった強力な感情を伴っていること
- 新たな証拠や経験に出会っても、容易に変容しにくいこと
ステレオタイプの心理的・社会的影響
ステレオタイプは個人の自尊心や自己評価に影響を与えることがある。ステレオタイプ脅威(stereotype threat)もそうした心理的影響の一つであり、個人が自分が属するグループに関連するネガティブなステレオタイプを意識することで、ストレスを感じ、その結果、テストや重要な活動でのパフォーマンスが低下することがある。このような状況は、不安や抑うつの感情を引き起こし、長期的な心理的な健康問題につながりうる。
ステレオタイプは、職場、教育、メディアなど、社会のさまざまな領域で偏見と差別を助長する。たとえば、性別や人種に基づくステレオタイプは、雇用や教育の機会において不平等を生じさせることがある。ステレオタイプに基づいた期待の低さから、特定のグループの人々は自分たちの能力を十分に発揮するチャンスを奪われるのだ。このような構造的なバリアは、社会の進歩にとって大きな障害となります。
ステレオタイプの具体例
ステレオタイプはある特別な状況のもと発生するものではなく、私たちの日常に存在している。具体的には下記のようなものがある。
ジェンダー
- 「女性ははっきりと意見を言わず、おしとやかである」
- 「男性は重いものを運ぶ力がある」
- 「女々しい」など、女性はか弱いものだという先入観を持たせる日本語。
人種・国籍・民族
- 「アメリカ人は自己主張が強い」
- 「イタリア人だからパスタやピザが好き」
- 「黒人は足が速い」
年齢
- 「若者は責任感がない」
- 「高齢者は新しい技術や変化に適応できない」
- 「中年の人々は変化に抵抗がある」
職業
- 「教師は忍耐強く、常に優しい」
- 「エンジニアは社交的でなく、内向的である」
- 「芸術家は不規則な生活を送り、非現実的な夢を持っている」
地域
- 「都会の人はおしゃれだ」
- 「東京の人はいつもせかせかしている」
- 「大阪の人は面白い」
身体的特徴
- 「背が高い人はリーダーになる素質がある」
- 「肥満の人は怠惰で規律がない」
- 「筋肉質の人は頭を動かす仕事よりも肉体労働に向いている」
能力や障害
- 「障害者は日常生活のあらゆる面で助けが必要」
- 「アスペルガー症候群の人には天才が多い」
- 「精神障害のある人は危険で予測不可能である」
これらのステレオタイプは、発言者の抱くイメージや具体的な経験に基づいて形成されたものであり、属性の人すべてに当てはまるわけではない。しかし、ひとたびステレオタイプを強く抱いてしまうと、それを覆すことは簡単ではない。反例に出会ったときには、それをステレオタイプから外れた「例外」とみなす人も少なくない。
なぜステレオタイプは起こるのか?
こういったステレオタイプの多くは、メディアによって形成されている。私たちは、テレビやインターネット、新聞などのニュースはもちろん、映画や広告など、あらゆる媒体を通して物事を知る。メディアの情報は、簡単に入手することができる一方で、真偽を確かめることなく信じられていることが多い。正しい情報を得るためには、多大な労力と時間をかけ、ひとつの物事に対して、多様な情報を見て調べたり考えたりすることが必要だが、そのための余裕持っている人はそう多くないからだ。
また、そもそも現代の若者はインターネット情報を信じ切っているきらいがあり、情報が正しいかどうか確認する必要性を感じていないことも指摘される。このように、一人一人の個人が多様であることを忘れ、与えられた数少ない情報から誰かや何かのイメージを持ち、判断してしまうステレオタイプは、差別や偏見、ひいては深刻な問題に発展しうる。
偏見・差別とステレオタイプとの違い
このステレオタイプと似た意味の言葉に、「偏見」がある。ステレオタイプが、必ずしもネガティブな特性のみで構成されない一方で、一般的に偏見という言葉はネガティブな意味で使用され、マイナスイメージを与えるものとされる。また、ステレオタイプは社会に定着しているもののことを言うが、偏見には主観を伴う個人的な先入観が含まれる。
しかし、意味には違いはあるものの、ステレオタイプは偏見や差別につながったり、それらを助長したりすることもある。特に、支配者が社会統制の手段としてそれを意識的に操作する場合には、ナチスのユダヤ人に対する迫害運動、アメリカの「赤狩り」のような、大きな社会的弊害を引起す可能性がある。
また、たとえ意図していなくとも、無意識の偏見はマイクロアグレッションとなる可能性もあり、一人一人が注意することが大切だ。
ステレオタイプが差別として顕在化した事例:黒人のステレオタイプ
2020年、NHKの国際情報番組『これでわかった! 世界のいま』が、白人と黒人の格差について説明するアニメを番組内で流した。その内容が人種差別的だと、ツイッターなどで多くの批判を集めた。
同アニメは、2020年に起こったジョージ・フロイド事件が発端となり全米に広がった抗議デモ「Black Lives Matter」を解説するためのものであった。そのなかで指摘されたのが「人種のステレオタイプ」だ。主役男性のマッチョな肉体や低くドスの効いた声、知的でない話し方などは、黒人男性の人種ステレオタイプを集めたもののように受け取られた。さらに、男性が財布を強く握りしめた動作からは、男性が「お金がないから怒っている」「今にも強盗を働きそう」といった印象を与えた。
この事態を受け、NHKは9日に謝罪の文書を発表したが、同アニメは海外メディアでも取り上げられ、ジョセフ・M・ヤング駐日米国臨時代理大使は、「この動画ではもっと多くの考察と注意が払われるべきでした。使われたアニメは侮辱的で無神経です」と自身のツイッターアカウントで批判した。
ステレオタイプの認知が情報処理に役立つことも
膨大な情報を一定の型にはめて把握しようとするステレオタイプの認知は、情報を効率的に処理することに役立ち、ポジティブな側面も持っている。
例えば、車の運転中に高齢者が視界に入った場合、ほとんどの人は、「高齢者は、判断に時間がかかるかもしれないので、思いがけない行動をすることがある」というステレオタイプの認知をすることで、高齢者のそばを注意して運転するといった判断が瞬時にできる。
これがもし、ステレオタイプの認知が機能せず「男性、元気そう、スニーカーを履いている、日焼けをしているので元気に動く体力があるかもしれない……」などと脳内で情報を網羅的に処理していたら、適切な判断に時間がかかってしまうかもしれない。
ステレオタイプに対抗する方法
ステレオタイプが引き起こす一番の問題は思考停止であると言えるだろう。「あの人は日本人だから」「男性だから」といって理由付けしてしまえば、目の前の事態についてそれ以上思考する必要がなくなる。しかし、思考することをやめると、単純化された「日本人」「男性」のイメージはより肥大化し、いずれ偏見や差別を肉付けしていくこともある。こういったステレオタイプによる危険を防ぐために、私たちには以下のようなことを実践していくことが必要だ。
自分自身の中にステレオタイプがあると自覚しておくこと
自分の中にステレオタイプがある可能性を常に自覚し、メディアの報道などを見る時に、そのまま受け入れず、それが事実かどうか、報道の方向が偏っていないかと確認することが大切だ。例えば、もし報道が「アラビア世界は非常に危険だ」と伝えていたとしても、その報道に疑問を持ち、他のニュースなどを調べてみることで、初めて真実かどうか分かる。
偏見を受けたら声を上げること
多くの人は自分自身のステレオタイプに気付かないまま、知らず知らずのうちに、差別的な言動に出てしまう。それゆえ、差別や偏見を受けた側が、声を上げてそのことを伝え、ステレオタイプを押し付けられていることを伝えなければ、世の中に蔓延るステレオタイプや偏見はそのまま放置されてしまうだろう。
ステレオタイプを付与することは、「自分とは違う」レッテルを他者に貼り付け、他者を理解した気になろうとする行為とも捉えられる。だが、一つの情報だけを頼りに、自分の中でイメージを作り上げたり、信じ込んでしまったりすることは危険であり、できるだけ様々な人やメディアの声を聞くことは大切なことだ。また、ステレオタイプに反する新たなものに出会ったとき、肩書きやイメージに捉われないコミュニケーションを積極的に開いていくこと。それも、ステレオタイプによる差別や偏見などのない社会への大きな一歩になるだろう。
【関連ページ】マイクロアグレッションとは・意味
【関連ページ】Black Lives Matter(BLM)とは・意味
【参照サイト】ステレオタイプとは何?
【参考文献】下村 健一、『マスコミは何を伝えないか』、岩波書店、2010 年
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- Build Back Better(ビルド・バック・ベター)
- Busing(強制バス通学)
C
- CCS(二酸化炭素回収・貯留)
- CDM(クリーン開発メカニズム)
- CDP(Carbon Disclosure Project)
- Chosen family
- CIO(Chief Impact Officers)
- Climate Clock(気候時計)
- Climate Sience(クライメートサイレンス/気候沈黙)
- Climate Tech(気候テック)
- COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)
- Country as a service
- Cradle to Cradle(ゆりかごからゆりかごへ)
- CSA(地域支援型農業)
- CSR(社会的責任)
- CSV(共通価値の創造)
- Cycle Logistics(サイクルロジスティクス)
D
E
- eスポーツ
- EBPM(証拠に基づく政策立案)
- Eco-DRR
- EdTech(エドテック)
- e-ヘルス(e-Health)
- ELSI
- Environmental Gentrification
- ESD
- ESG投資
- ETS(排出権取引スキーム)
- EUタクソノミー
- EU-ETS
F
- FaaS(Farming as a service)
- Fab Lab(ファブラボ)
- Farm to Fork
- FemTech(フェムテック)
- FinTech(フィンテック)
- First Movers Coalition(FMC)
- Flight shame
- FOMO(Fear of missing out)
- FSC認証
- FtM(Female to Male)
- FTSE4Good Index(フッツィー・フォー・グッド・インデックス)
G
- GHG排出ピークアウト
- GNR革命
- GovTech(ガブテック)
- Green Climate Fund(緑の気候基金)
- Green Dating
- GRI(Global Reporting Initiative)
H
I
- IaaS(Infrastructure as a Service)
- IIRC(国際統合報告評議会)
- Inner Development Goals(IDGs)
- InsurTech(インシュアテック)
- Internet of Abilities(能力のインターネット)
- Internet of Animals(動物のインターネット)
- Internet of Behavior(行動のインターネット)
- Internet of Customers(顧客のインターネット)
- Internet of Human(ヒトのインターネット)
- Internet of Skills(スキルのインターネット)
- Internet of Things(モノのインターネット)
- IPCC
- ISSB
- IUU漁業
J
L
- LAC(Living Anywhere Commons)
- LCA(ライフサイクルアセスメント)
- LEAPアプローチ
- LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)
- Learning by doing
- Less is more
- Life-Centered Design
- LOHAS(ロハス)
M
- MaaS(Mobility as a Service)
- MAPA(Most Affected People and Areas)
- MENA(ミーナ)
- Medtech(メドテック)
- MDGs(ミレニアム開発目標)
- MSC認証
- MtF(Male to Female)
N
O
P
Q
R
S
- SaaS(Software as a Service)
- 里山イニシアチブ
- SASB
- SBT(Science Based Targets)
- SBTs for Nature(Science-Based Targets for Nature)
- SDGsウェディングケーキ
- SDGsウォッシュ
- SFDR
- Shecession
- Shecovery
- SOGI(ソジ)
- SPO(Sustainable Public Equity Offering)
- STEAM教育