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デコロナイゼーション(脱植民地化)とは・意味

先住民の写真

(c) Nisag, Chimborazo/ image via Shutterstock

デコロナイゼーションとは?

デコロナイゼーションとは、日本語で脱植民地化の意味。植民地化されていた国々が宗主国(支配国)から独立する過程を指す言葉で、非植民地化ともいわれる。また、過去の植民地支配によって残る社会・文化・心理的な影響から脱することを意味する場合もある。

最初にデコロナイゼーションという言葉が登場したのは1932年、ドイツ人の経済学者Moritz Julius Bonnが、自治を獲得したかつての植民地を指して使用したときだとされている(※1)。その後、1990年代までの間に、先住民から土地や資源、伝統文化などを奪う植民地化の社会・文化・心理的影響を覆すプロセスを表すために、学者やアクティビストたちが「デコロナイゼーション」という言葉を用いるようになった(※2)

植民地化されていた国では、独立から時間が経っても入植者である西欧由来の価値観、習慣、法律、文化などが色濃く残っている場合が多い。また先住民族が依然として疎外されていたり、過去の支配関係がかたちを変えて残っていたりすることもある。近年、社会のあらゆる面において、そうした植民地化の負の影響を解消していくべきだとする声が高まっている。

▶️ なぜ、脱植民地化を学ぶのは私たちにとっても大切なことなのか?

脱植民地化の歴史

「国の独立」という政治的な意味での脱植民地化は、南北アメリカ大陸の独立を皮切りに18世紀末から19世紀にかけて世界中で見られはじめた。

なかでも第二次世界大戦は脱植民地化の大きなきっかけとなり、1945年に国際連合が創設されて以来、1947年に成立したパキスタンとインドの独立をはじめとして100カ国近くの国々が独立し、アジアやアフリカ各地で活発に脱植民地化が行われた。また、1960年12月14日に国連総会で決議された「植民地独立付与宣言」は、脱植民地化の歴史において重要な意味を持つ。

脱植民地化の過程では、ほとんどの場合、独立戦争をはじめとして反乱や闘争といった暴力的手段を伴うことが多い。1954〜1962年にフランスからの独立を目的に起こったアルジェリア戦争では、150万人ものアルジェリア人の命が失われたほか、無血の非暴力的な抗議活動であったとされるインドの独立運動でさえも長年、暴力的な闘争があったという。

社会・文化・心理面における脱植民地化

また、現代においても医学、科学、教育、文化、世界保健など、社会のあらゆる面で植民地時代のイデオロギーや慣行が残っている場面は多くある。

そこで社会・文化・心理面における脱植民地化を進め、植民地化により失われた伝統文化や概念を取り戻しながら、先住民の権利を公平に保護し、各民族独自の価値観を尊重していくべきだとする声がある。

一例としては、以下のような面での脱植民地化が挙げられる。

食糧システムの脱植民地化

植民地時代に、入植者が先住民の伝統的な食文化を禁止して西洋の食生活を強制した歴史から、現在、伝統的な食糧システムに関する知識が失われたり、健康問題が蔓延したりといった問題が起こっている。

例えば北米の先住民は植民地化により、何千年もの間行ってきた農耕と狩猟を禁止され、缶詰の肉、乳製品など伝統的な食生活には含まれない食事を強要されていた。しかし元来、彼らの伝統的な農耕・狩猟システムは生物多様性の保護や植物の回復力の向上など、自然との共生に配慮したサステナブルなものだったという。

そこで、そうした伝統的な食糧システムに関する知識の保存や、食糧分野における先住民の権利保護、奪われた土地の復活などを目指す取り組みが行われている。

知識の脱植民地化

植民地化の影響により、科学、哲学、社会学、宗教学、心理学などのあらゆる学術分野において西洋の物事の概念や解釈が正しく合理的であり、「真実・事実」または「現代的」だとされ、他の文化に押し付けられていることがある。

例えば西洋医学の概念が科学的に正しく、最先端で、その他の文化にある伝統的な医学は根拠がない、現代的でないとする考えなどだ。

しかし、あらゆる分野でその国や民族ならではの土着の概念が存在していたり、西洋とは違った物事の捉え方や、幅広い信念を持っていたりすることは多くある。そこで異なる文化ごとにある概念や解釈を広く理解し、受け入れ、より多元的に物事を捉えるべきだという考えを「知識の脱植民地化」という。

教育システムの脱植民地化

植民地化された国では教育現場においても、西洋の学者による知識・手法・アイデアをもとにした教育が基本となっており、植民地化以前の先住民の学識者が持つ知識や独自の教育論が忘れ去られてしまうことがある。

そこで教材や教育カリキュラムを見直すだけではなく、教育現場における価値観や評価基準、権利構造を脱植民地化することで視野を広げ、相互理解を深めていくことが必要だとされている。SNSでは「本棚の植民地化を解除する」といった表現が使われることもある。

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デザインの脱植民地化

デザインなどの芸術分野においても、作品が西洋の男性デザイナーから見た基準で評価されることは多い。非西洋文化で作られた作品はデザインではなく伝統工芸品として分類され、西洋のデザインに比べ劣っているとされることもある。

そうした価値観は芸術において何を「良い」とするかを均一にしてしまい、デザインの幅や可能性を損なうことにもつながる。そこでデザインにおける価値観やプロセス、作業工程の後ろにある歴史や権力構造を見直し、デザインの脱植民地化を図っていくべきだとする主張がある。

データの脱植民地化

植民地支配の過程で、これまで覇権的に収集・管理されてきた先住民の言語や伝統文化に関するデータを、先住民自身によって管理し、より先住民に利益のあるかたちで活用していくべきだとする考えも出てきている。

例えば植民地時代の同化政策の影響によって失われかけているニュージーランド先住民の言葉、マオリ語を守るために、音声データをマオリ族自身のために活用し、言語の再生と復興につなげる取り組みなどがある。この取り組みはカナダやハワイの先住民コミュニティにも広がりをみせている。

まちの脱植民地化

地域や通りの名称が帝国主義の歴史を反映しており、植民地化を肯定的に捉えた名称が見られることもある。例えばロンドンのウェンブリー地区には、大英帝国博覧会で「カナダ・パビリオン」があった場所が「カナダ・ガーデン」という地名になっているという。

こうした名称を、歴史の反省を踏まえたものに変えようとする動きがロンドンでは高まっているようだ。地名だけではなく、奴隷制度を支持していた人物の銅像を撤去・移動させようとする動きも見られる。

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デコロナイゼーションと気候変動

さらに「植民地」や「脱植民地」というワードは、気候変動について語る際にも用いられる。

かつての植民地政策によって先住民族コミュニティの多くは何世紀にも渡って続けてきた自然と共生する農業システムなどを禁じられ、土地を搾取されるだけでなく、綿プランテーションなどの換金作物を作るために森林伐採などを余儀なくされることもあった。

さらに現在、そうした自然破壊により深刻化する海面上昇や異常気象の影響を大きく受けているのも先住民である場合が多く、彼らは気候変動対策において排除されてしまっていたり、不利益を被ったりしていることがある。

気候変動対策において実際に指摘されている問題は、以下のようなものだ。

廃棄物の植民地主義

廃棄物の処理の規制が世界的に厳しくなる中で、廃棄物の輸出が問題視されている。特に、中国が廃棄物の輸入を禁止して以降、ドイツやイギリスなどから多くの廃棄物がトルコや東南アジアなどに送られるようになった(※3)。多量の廃棄物を処分するには、エネルギーが必要であり、特に化石燃料を使って焼却をする場合には炭素を多く排出する。脱炭素への取り組みが進むなかで、そのしわ寄せを受ける国が出てきている。

気候変動対策と植民地主義

IPCCの第六次報告書で、先住民の知恵が気候変動対策に役立つという研究結果が公表された(※4)。先住民が住む地域のなかには、エネルギー資源の開発のため、土地環境が悪化している場所も少なくなく(※5)、その解決が急がれる。それと同時に、現在進められている気候変動対策には先住民の声が十分に反映されておらず、「気候変動対策の脱植民地」が必要だと言う声が上がっている。

カナダで先住民の支援活動を行う団体、Indigenous Climate Action (ICA)は、以下の例を挙げている。

1. EV車の利用可能場所が限定的
再生可能エネルギーの活用が目指される中で、世界的にEV車の普及に向けた動きが広がっている。だが、先住民たちの住む地域ではEV車の充電ステーションへのアクセスがない場合が多い。また、EV車の製造に必要な資源の多くは先住民の土地のものが利用されており、それに伴う水源の汚染などの課題もある。

2. カーボンオフセットによる土地の収奪
個人や企業は、土地を購入することで温室効果ガスを削減、つまりカーボンオフセットをする。だが、購入された土地のなかには、先住民たちにとっての家であり、神聖な場所である場合もあるにもかかわらず、きちんと届け出がされていないこともあるといい、化石燃料産業の個人への「責任の転嫁」だと言われる。

3. ダムによる水質汚染
環境負荷の低い水力発電など、エネルギーの生成に不可欠なダムの存在は、魚や哺乳類などに有害な化合物を増やし、それがCO2やメタンガスの排出につながるとされている。

先住民の知恵を尊重した取り組み

このように気候変動対策からみても、しばしば不公平な立場に置かれる先住民たち。しかし植民地政策により禁じられ、失われかけている彼らの伝統的な生活様式の中には、サステナブルな知恵が息づいていることも多い。

例えば、オーストラリアの先住民がかつて何世紀にもわたって実践してきた野焼きだ。野焼きは1700年代の植民地政策で禁止されたが、研究によると、生物多様性を保護しながら森林火災を未然に防ぎ、森を適切に管理する役割があるという。

以下の記事では、脱植民地化につながり得る、そうした先住民の知恵や視点が生かされている取り組みを取り上げている。

メキシコの先人の知恵に学ぶ「災害に強い駅」の作り方

オーストラリア先住民の知恵が詰まった「自然のバーム」文化継承と自立の一助に

アマゾン先住民族の「ありのまま」の姿を映し出す。映画『カナルタ』監督インタビュー

オーストラリア、ビクトリア州で行われている先住民との対話促進キャンペーン

アマゾン生還の子どもたちに見る、コロンビア先住民の世界観

オーストラリアは、どう先住民へ敬意を示すのか。現地在住者がみた3つの事例

オーストラリア発、先住民との「寿命格差」を埋めるファッションブランド

まとめ

植民地化による負の影響を受けた先住民の文化の中には、現代に生きる私たちにとって既存の価値観を取り払い、世界を広げてくれるきっかけや、自然との共生が息づいた学び、受け継いでいきたい知恵も多くある。

デコロナイゼーションによって民族間の不平等をならし、個々に持つユニークな伝統文化を保護・継承していくことはもちろん、物事の捉え方、学問、考え方などあらゆる場面において、私たちはより多元的に、多様な観点から世界を見ることが求められている。

西洋中心の価値観に疑問を呈すだけでなく、植民地化の歴史を深く理解した上で、あらゆる物事が一定の基準には収まらないところで多面的に存在していて、そこに優劣や正解はそもそもないことを忘れずにいたい。

SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という言葉にもう一度立ち返り、多様で公正な視点から社会のより良いあり方を追求していくべきではないだろうか。

※1 Towards a History of Decolonization
※2 Decolonization is more than a meme or hashtag
※3 ‘Waste colonialism’: world grapples with west’s unwanted plastic
※4 Indigenous knowledge is vital in the fight against climate change: IPCC report
※5 Gas Pipelines: Harming Clean Water, People, and the Planetなど

【参照サイト】THIS IS WHAT IT MEANS TO DECOLONIZE CLIMATE POLICY
【参照サイト】Decolonization 101: Meaning, Facts and Examples
【参照サイト】It will take critical, thorough scrutiny to truly decolonise knowledge
【参照サイト】What Does It Mean to Decolonize Design?
【参照サイト】How Colonialism Spawned and Continues to Exacerbate the Climate Crisis
【参照サイト】音声データの“脱植民地化”を目指せ:ビッグテックから母語の主権を守るマオリの人々
【参照サイト】植民地の独立|国際連合広報センター

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